Destiny Ling

第三話 ~共闘~


―1―

だが、襲撃者は立ち上がる。

一瞬の間に判断し、急所をはずしたとしか考えられない。

その反射神経のよさに、ヴァンは驚きつつ、悔しくも思った。

同じ手は、二度は通じない。

出会って、数分と経たないが、彼はすでにそう悟っていた。

再び、構えに入る。

双方の間に、緊張が走る。

と、その時であった。

「そこまでにしておけ、ツヴァイ! お前は、私が言ったことがわかっとらんのか!」

双方の硬直を、一瞬でとくような、強い意志に満ちた声。

その声は、襲撃者の後方、老人から発せられた。

ツヴァイ、と呼ばれた襲撃者は、静かに声のするほうへ振り返った。

「申し訳ありません…」

弱々しい声で、まるでそう答えるのが精一杯であるかのように答えた。

「そちらのお方、ご迷惑をおかけしましたな。…ほれ、お前からも謝らんか」

老人が言う。

「…すみません」

ツヴァイと呼ばれた襲撃者は、静かにそう言った。

 

―2―

その小さな集落は、道から外れたところにあった。

是非お詫びがしたい、という老人に導かれ、ヴァンはそこにやってきた。

そして、その集落でもっとも大きな家へと招かれたのである。

「この度のことは、本当に申し訳ない…あやつには、よく言い聞かせておくので、どうか許して下され」

「いえ…そんな、大丈夫ですよ」

もう延々と、この問答が続く。

ヴァンは、話題を切り替えた。

「ところで、この集落はいったい何ですか?」

その問に、老人は答える。

「この集落は、旅の途中の者共が集って出来たものです。そのために、手練のものが多いのが特徴かの…」

「だから、彼は強かったんですね」

「あやつは、名をツヴァイというが、最近ここに入ってきて、最も強いやつでの」

「そうなんですか」

ヴァンは納得した。それほどに、彼の強さが信じられなかったからだ。

「そして、私はこの集落の長。…形式上だけだがの」

「だから彼は、あなたの制止命令に従ったんですね」

「形式上とは言っても、それなりの権限はあると言うことじゃ」

老人は笑みを浮かべながら言った。

「おお、話ばかりしていてもいけんな。今日はぜひここに泊まっていってくれんかの?」

ヴァンは、一瞬悩んだが、すぐに断る理由が無いことに気づいた。

「ええ、では、お言葉に甘えて」

 

―3―

ヴァンは、ツヴァイとともに一夜を過ごすことになった。

「…さっきは、悪かった。てっきり、夜盗か何かと思っちまったから、つい」

気まずそうに、ツヴァイは言った。

「いえ、気にしてませんから。それに、あなた強いですね」

ヴァンは微笑んでいた。全く気にしていない様子であった。

「…ありがとう」

つぶやくように、ツヴァイは言った。二人は、寝ることにした。

 

早朝。

ヴァンは、妙な感覚で目を覚ました。

何か、外で大きな音がしたような気がしたのだった。

もうすでに、日は昇っていた。

隣を見ると、ツヴァイの姿はもう無かった。

ヴァンは外に出た。

果たして、そこにいたのは巨大な熊であった。

「グリズリー…」

ヴァンはつぶやいた。

彼の2倍はあろうかと言う背丈。

灰色の毛並みと鋭い目、そしてずらりと並んだ牙は、その凶暴性を表していた。

グリズリーは、ヴァンに襲い掛かった。

素早く腰から短刀を抜き、交戦状態に入る。

最初の一撃をかわし、敵の隙を作る。

そして、ヴァンは一気に、グリズリ―の顔めがけて突進した。

狙うは、目だ。

目を使用不能にすれば、たいていの生物は、不利な状況に陥る。

そして、熊のような生物には、これが有効なのだ。

ヴァンの攻撃は、確実にグリズリーの右目を貫いた。

天へ届かんとする、グリズリーの咆哮。

ヴァンは間合いを取り、再び突進する。

グリズリーも応戦するが、片目を失った状態で攻撃を当てるのは至難の業だ。

ヴァンはグリズリーの攻撃を難なくかわし、喉元を切り裂く。

鮮血とともに、巨大な熊は地に倒れた。

ヴァンは一息つき、走り出した。

ツヴァイを探しに。

 

―4―

集落の中央に、二本の剣を構えた少年が、立っていた。

ヴァンはその姿を見つけ、駆け寄った。

「ツヴァイ!」

「ヴァン…無事か」

「僕の方は…それより、そっちは?」

「2匹ほど片付けたが…まだ親玉がいる」

親玉。おそらく群れのボスだろう。

ヴァンは周りを見た。

そこには、数名の遺体が、無残に転がっていた。

「普通ここにいるやつらなら、グリズリーぐらいなら倒せるからな…大きいのがいるとみて間違いないだろう」

「そいつは…」

「わからんが…」

そこでツヴァイは言葉を切った。

目の前に、彼の背丈の3倍はあろうかという巨大な影が、迫っていたからだ。

「親玉の登場か」

ツヴァイはつぶやき、すぐさま戦闘体制に入った。

先に仕掛けたのは、グリズリーだった。

巨体とは思えないほどのスピードで、ツヴァイに襲い掛かる。

ツヴァイはそれをかわし、すぐさま反撃にでた。

その瞬間、ヴァンも攻撃に出た。

ヴァンは、グリズリーの注意を引いた。

隙を作るために。

「今だ!」

ヴァンが叫んだ。それと同時に、ツヴァイが攻撃にかかる。

ツヴァイの攻撃は、グリズリーの腹部をえぐった。

続くヴァンの攻撃は、グリズリーの左腕をえぐる。

しかし、巨体は倒れようともしない。

「なんて体力だ…」

ツヴァイがつぶやいた。

「急所を狙わないとダメみたいですね」

「だが、どうやってそこまで踏み込む? あいつのスピードは異常だ」

「あなたのスピードの方が速いでしょう…僕が注意を引きます」

そういうと、ヴァンはわざとグリズリーの攻撃範囲へと足を入れた。

グリズリーの攻撃は、ヴァンの右腕をかする。

苦痛に顔をゆがめつつも、彼は動きつづけた。

「グリズリーが動いた一瞬が勝負だ!」

ツヴァイに向かい、叫ぶ。

グリズリーは、ついに動いた。

その瞬間、閃光と化したツヴァイは、グリズリーの喉元へ、付きを放った。

鮮血とともに、巨体は大地に、沈んだ。

「やった…」

息を切らした二人は、その場に座り込んだ。

 

―5―

「思ったより大変だったな」

「かすっただけですよ」

「そういう油断が、命取りになるぞ」

ツヴァイは、ヴァンの傷の応急手当をしていた。

いくらかすったとはいえ、普通の人間なら致命傷になりかねない傷だった。

「で、これからどうすんだ?」

「とりあえず、首都に向かってみようと思います」

「そこには医者もいるだろうしな」

「はい、では、お元気で」

そういうと、ヴァンは荷物を持って外に出た。

後ろから、声がかけられる。

「待てよ」

「何でしょう?」

「首都の場所、知ってんのか?」

「…知りません」

「やっぱりな」

「どうしてそう思ったんです?」

「なんとなくだよ」

「…」

「それに、その傷の原因の一つは、俺なんだからな」

「え?」

「お前がいなかったら、その傷を負ってたのは俺だよ」

「はあ」

「首都まで先導してやるよ、ついてきな」

「いいんですか?」

「いつか、この集落から出ようと思ってたしな」

「では、よろしくお願いします」

彼らは、首都への道を、歩き始めた。

新たなる運命の輪の始まりであった。


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